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大阪地方裁判所 昭和58年(ワ)7905号 判決 1984年6月28日

【主文】

一  被告有限会社神戸スカーフは、別紙目録(一)(1)(2)記載の各標章をキュプラ織物その他キュプラ織物に加工を施した布地に使用し、又は、これを使用したキュプラ織物その他キュプラ織物に加工を施した布地を販売拡布若しくは輸出してはならない。

二  被告有限会社神戸スカーフは、その占有するキュプラ織物その他キュプラ織物に加工を施した布地及びその標識、容器、包装、印刷物から別紙目録(一)(1)(2)記載の各標章を抹消せよ。

三  被告らは、原告株式会社旭化成テキスタイルに対し、各自金五〇〇万円及びこれに対する昭和五七年八月二一日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告らは、原告旭化成工業株式会社に対し、各自金一〇〇〇万円及びこれに対する昭和五七年八月二一日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

五  原告らのその余の請求を棄却する。

六  訴訟費用は、原告株式会社旭化成テキスタイルと被告らとの間においては、同原告に生じた費用の五分の一を被告らの負担とし、その余は各自の負担とし、原告旭化成工業株式会社と被告らとの間においては、全部被告らの負担とする。

七  本判決は第三、四項に限り仮に執行することができる。

【事実】

「第一 当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告有限会社神戸スカーフは、別紙目録(一)(1)ないし(3)記載の各標章をキュプラ織物その他キュプラ織物に加工を施した布地に使用し、又は、これを使用したキュプラ織物その他キュプラ織物に加工を施した布地を販売拡布若しくは輸出してはならない。

2  被告有限会社神戸スカーフは、その占有するキュプラ織物その他キュプラ織物に加工を施した布地及びその標識、容器、包装、印刷物から別紙目録(一)(1)ないし(3)記載の各標章を抹消せよ。

3  被告らは、原告株式会社旭化成テキスタイルに対し、各自金五〇四〇万円(ただし、被告大栄株式会社は内金一〇〇〇万円の限度において)及びこれに対する昭和五七年八月二一日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

4  主文第四項と同旨。

5  訴訟費用は被告らの負担とする。

6  第三、四項につき仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二 当事者の主張

一  請求原因

(不正競争防止法に基づく請求)

1(一)  原告旭化成工業株式会社(以下「原告旭化成工業」と略称する)は、資本金五〇八億円、従業員一万三六〇〇人、年間売上高五四一九億円(昭和五四年度)を有する我が国の代表的な化学繊維メーカーである。

原告株式会社旭化成テキスタイル(以下「原告旭化成テキスタイル」と略称する)は、原告旭化成工業の一〇〇パーセント出資による子会社で、資本金三〇億円、従業員二一〇人、年間売上高約七〇〇億円(昭和五四年度)で、原告旭化成工業の製造に係る繊維素材を主要素材とする織物、編物の生産、販売を目的としている。

(二)  ところで、「ベンベルグ」は、キュプラ系〔再生繊維の一種で、コットンリンターを主原料として銅安法(キュプラアンモニウム法)により製造される。〕並びにキュプラ糸より製造される織物、編物に、原告旭化成工業が付した標章であるところ、原告旭化成工業は、昭和六年、同社設立以来、キュプラ糸並びにキュプラ糸より製造される織物、編物に、「ベンベルグ」の標章を付して製造販売し、昭和五一年四月一日に、原告旭化成テキスタイルを設立してからは、原告旭化成工業は、「ベンベルグ」原糸の製造販売をし、原告旭化成テキスタイルは、原告旭化成工業より「ベンベルグ」の標章の使用を許諾されて「ベンベルグ」織物の製造販売をしており、その昭和五四年度における原告旭化成工業の原糸売上高は三〇七億円、原告旭化成テキスタイルの織物売上高は二一七億円に達するほどであつて、日本国内において「ベンベルグ」は著名である。

2  原告旭化成工業は、昭和三二年以来、輸出用「ベンベルグ」には、別紙目録(二)(1)記載の標章(以下「甲標章」という)を一貫して使用しており、昭和五一年設立された原告旭化成テキスタイルが「ベンベルグ」織物を輸出するについても甲標章の使用を許諾し、同社も甲標章を使用している。このため、甲標章は長年の使用により取引者及び需要者間において極めて著名なものとして周知されている。

3  また、別紙目録(二)(2)記載の標章(以下「乙標章」という)も原告らの商品表示として周知のものとなつている。

4  更に、別紙目録(二)(3)記載の標章(以下「丙標章」という)は、旭化成のベンベルグ七三三〇番を示す表示であり、原告旭化成工業が昭和三〇年ころからキュプラのジョーゼット織物に使用した品番であつて、昭和五一年以降原告旭化成テキスタイルにおいてもキュプラのジョーゼット織物に使用し、商品識別機能を有している。丙標章を付したキュプラのジョーゼット織物は、特にパキスタン人の婦人用スカーフとして愛好されており、中近東向け輸出用に大量に売れており、このため、丙標章も長年の使用により取引者及び需要者間において、極めて著名なものとして周知となつている。

5  被告有限会社神戸スカーフ(以下「被告神戸スカーフ」と略称する)は、昭和五三年一〇月ころから、別紙目録(一)(1)ないし(3)記載の各標章(以下それぞれ「イ号、ロ号、ハ号標章」という)を同目録(4)記載の方法(以下「被告方法」という)により使用し、これをキュプラ織物に付して訴外淡水繊維株式会社(以下「訴外会社」と略称する)に売却し、右訴外会社はこれを自から中近東に輸出し、あるいは中近東への輸出商社に販売している。

6  イ号ないしハ号標章はそれぞれ甲ないし丙標章に類似している。

(一) イ号標章と甲標章とはいずれもローマ字一二字からなり、二つの単語の組合わせであり、各単語は前が五字で後が七字である。そして、各単語の頭文字はいずれも大文字AとBで、他は小文字であり、小文字のうち、「s」「i」「b」「r」は両者とも文字配列上同じ位置にある。甲標章の小文字「a」はイ号標章では小文字「o」、同様に「h」は「n」、「e」は「a」、「m」は「n」、「g」は「q」とそれぞれ異なつているが、母音、子音の区別では同じであるし、異なる文字とはいつても書体が極めて類似している字が選ばれている。以上から、イ号標章は甲標章と外観において類似している。

また、称呼の点についても、甲標章はドイツ語風に「アサヒベンベルグ」と称呼されるのに対し、イ号標章は「アソニバンバルク」との称呼を生ずる。この両称呼を比較してみると、両者はいずれも八音より構成され、そのうちの三音、即ち標章の類否を判断する上で最も重要とされる語頭の「ア」、語尾近くの「ン」「ル」を同一にしている。そして異なる五音についても、第二音の「サ」と「ソ」の音は同行音中最も近似した音であり、第三音の「ヒ」と「ニ」は「イ」の母音を共通にする音、第四音、第六音の「ベ」と「バ」は同行音に属する音、語尾の「グ」と「ク」は清音と濁音であるから、いずれも聴き誤り易い音である上に、聴者の注意力の貧しい中間音であるから、これらを全体に称呼する場合には、その語韻語調が相似たものとなり、口頭、電話等称呼による取引にあつては彼此相紛れるおそれのある類似のものである。

更に観念の類似性につき考えるに、混同が問題となる中近東において主に用いられるアラビア語で両標章は特段の意味を持つ言葉ではないため、両標章ともに、その標章により表示される商品を示す以外に特段の観念をもつものではなく、その点では同じである。

(二) 乙標章とロ号標章はいずれも鷲のマークの標章でその中に品番が記載されている。即ち、乙標章は一羽の鷲が羽を広げた金色のマークの中に「AK7330」の品番が白ぬき文字で記載されており、ロ号標章は鷲が二羽であるものの、同じく羽を広げた金色のマークの中に「AR7330」と白ぬき文字で記載されており、ロ号標章は乙標章と外観、観念において類似している。

(三) ハ号標章は丙標章と一見して類似している。即ち、数字はまつたく同じであり、最初のAも同じで、二文字目の「K」と「R」が異なつているものの、「K」と「R」はアルファベットの中では比較的書体が似ている。以上からハ号標章は丙標章と特に外観において極めて類似している。

7  イ号ないしハ号標章は、被告神戸スカーフにより被告方法でキュプラ織物に用いられている。他方甲ないし丙標章は、原告らにより別紙目録(二)(4)記載の方法(以下「原告方法」という)でキュプラ織物に使用されている。

被告方法は原告方法と極めて類似している。即ち、原告方法は、上から順に、「ローマ字のBを用いた図案」、ローマ字の標章、鷲のマークの標章、「草模様のようなゆるいカーブを持つた曲線をつなぎあわせて作つた長方形と、その中のローマ字の標章」とによつて構成されているが、これは被告方法もまつたく同じである。

これを各部分ごとに検討すると、右各標章が類似であることは既に述べたとおりであり、ローマ字の「B」の図案の白地の文字、赤と青の背景という配色は両者同じであり、また、両者の草模様のようなゆるいカーブを持つた曲線をつなぎあわせて作つた長方形は、いずれも金文字転写マークによるものであり、その形態もよく似ている。

したがつて、イ号ないしハ号標章はそれ自体甲ないし丙標章に類似し、更にその使用方法においてなお一層類似性が強められ、イ号ないしハ号標章を付した商品の主体を原告らと誤認する顧客も生じている。

8  原告らは、被告神戸スカーフの前記不正競争行為により営業上の利益を害され、また将来にわたつて害されるおそれがある。

9  被告神戸スカーフは、イ号ないしハ号標章を付してキュプラ織物を販売することが不正競争行為になることを知り又は過失により知らないで昭和五三年一〇月から今日まで、イ号ないしハ号標章を付して少なくとも七二万ヤードのキュプラ織物を販売し、その結果、原告旭化成テキスタイルはこれと同数のキュプラ織物を販売しえず、よつて、五〇四〇万円(70円(1ヤード当りの利益)×72万ヤード=5040万円)の損害を蒙つた。

10  被告栗原弘(以下「被告栗原」と略称する)は、昭和五三年当時から被告神戸スカーフの代表取締役の地位にあり、原告らが甲ないし丙標章を使用していることを熟知しながら、被告神戸スカーフに本件不正競争行為を行うよう指示し、この指示に基づく被告神戸スカーフの不正競争有為により原告旭化成テキスタイルは前記損害を蒙つた。したがつて、被告栗原は商法二六六条ノ三により被告神戸スカーフが原告旭化成テキスタイルに加えた前記損害につき、被告神戸スカーフと連帯して賠償する義務がある。

(契約に基づく違約金請求)

11(一) 被告神戸スカーフは、本件不正競争行為前の昭和五二年に甲標章を無断使用し、原告旭化成工業から警告を受け、昭和五三年九月二七日、原告旭化成工業に対し、同日以後甲標章の類似標章を一切使用しないこと及び万一使用した場合には一〇〇〇万円の違約金を支払う旨約した。そして、被告栗原は同日原告旭化成工業に対し、被告神戸スカーフの右違約金支払債務につき連帯保証した。

(二) ところが、被告神戸スカーフは昭和五三年一〇月以降甲標章と類似するイ号標章を使用している。

(法人格否認の法理)

12 被告神戸スカーフの代表取締役であつた被告栗原は、原告らの本訴甲事件請求を有名無実のものにしようと、昭和五七年五月七日に被告大栄株式会社(以下「被告大栄」と略称する)を設立し、被告神戸スカーフの行つていた営業及び資産をすべて被告大栄に取込み、その後昭和五七年一〇月二七日に法人格の外形のみとなつた被告神戸スカーフにつき解散登記をなし、同年一二月二一日に清算結了登記を経由した。

被告栗原が前記意図をもつて被告大栄を設立したことは、①被告神戸スカーフと被告大栄とはいずれも本店を神戸市中央区中山手通七丁目二九番二四号としており、同じ場所で営業している。②会社の目的はいずれもスカーフ等の加工、販売、輸出である。③被告神戸スカーフの代表取締役は被告栗原、監査役はその妻栗原好子であり、被告大栄の代表取締役には右栗原好子が就任している。④両社は同じ従業員を使用している。⑤両社の得意先は共通している。⑥両社を別法人としなければならない実質的理由はないことに照らして明らかであり、かかる場合には法人格の濫用として法人格否認の法理が適用されるべきである。

よつて、原告らは、不正競争防止法一条一項一号に基づき、被告神戸スカーフに対し、前記請求の趣旨1、2項記載の判決を求め、原告旭化成テキスタイルは、不正競争防止法一条ノ二第一項、商法二六六条ノ三に基づき被告神戸スカーフ、被告栗原に対し各自損害金五〇四〇万円、被告大栄に対し損害金五〇四〇万円のうち一〇〇〇万円及び右各金員に対する不法行為の日の後で甲事件訴状が被告神戸スカーフ、被告栗原に送達された日の翌日である昭和五七年八月二一日から支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告旭化成工業は、被告らに対し、各自違約金一〇〇〇万円及びこれに対する甲事件訴状が被告神戸スカーフ、被告栗原に送達された日の翌日である昭和五七年八月二一日から支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。」

理由

一請求原因1(一)の事実は原告らと被告神戸スカーフ、被告栗原間では争いがなく、被告大栄については、<証拠>により認められる。

二<証拠>によれば次の事実が認められる。

1  原告旭化成工業は、昭和六年、同社設立以来日本でただ一社キュプラ糸及びキュプラ糸で作られる織物、編物を、これに「ベンベルグ」の名称を付して製造販売し、昭和二九年二月一四日、旧第三四類銅安法による人絹織物を指定商品として、右「ベンベルグ」の英文字を含む「ASAHIBEMBER-G」なる商標(登録第四四三九三五号)及びその連合商標として「BEMBER-G」なる商標(登録第四五六九八五号)の各登録を受けて該標章をその商標として使用し、及び昭和三四年頃から右「ベンベルグ」名称を新聞、雑誌、テレビを通じて広く宣伝していたが、昭和五一年四月一日に原告旭化成テキスタイルが設立されてからは、原告旭化成工業はベンベルグ原糸の製造販売をし、原告旭化成テキスタイルは、原告旭化成工業よりベンベルグの名称ならびに右標章の使用を許諾されて、キュプラ織物の製造販売をしており、日本国内では右ベンベルグの名称並びに前記標章は原告らのキュプラ原糸及びこれを使用した織物を指称する呼称並びに標章として著名周知となつている。

2  原告らは輸出用の商品には右ベンベルグを英文字にした甲標章や鷲のマークを使用しているが、原告旭化成工業は昭和三二年ごろから、原告旭化成テキスタイルは昭和五一年ごろから、主に大阪市、神戸市内一三社の商社を通じて、品番をAK七三三〇番とするキュプラジョーゼット織物の白生地反物(以下「原告商品」という)に甲、乙標章を原告方法で表示して中近東諸国に輸出している。なお、右原告商品は国内販売はされていない。

3  原告旭化成テキスタイルの昭和五二年度のキュプラ織物の販売数は五九万九三〇〇疋、売上高は五一億五四七〇万円で、うち中近東向け輸出合計のそれは一七万四四〇〇疋、一七億五四八〇万円、更にそのうちAK七三三〇は五万〇七〇〇疋、六億六八二〇万円であり、昭和五三年度は販売数五二万疋、売上高四六億六八二〇万円で、中近東向け輸出合計のそれは一四万七七〇〇疋、一四億一九九〇万円、更にそのうちAK七三三〇は四万九六〇〇疋、六億六一七〇万円である。

そして右事実及び<証拠>を総合すると、原告らの甲、乙標章は遅くとも昭和五三年ごろにはわが国の化学繊維の取引者の間では原告らの輸出用の商品(品番AK七三三〇なるキュプラジョーゼット織物)を表す表示として広く認識されていたことが認められ<る。>

なお、原告らは丙標章も周知性を有していた旨主張するが、前記のとおり「AK七三三〇」なる符合それ自体は原告商品に付された品番に過ぎず、且つ<証拠>によれば丙標章は乙標章の一部となつているものであるから、乙標章から独立して丙標章のみによつても原告らの商品表示機能を有するものとは認め難く、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

したがつて、原告らの本訴請求のうち、丙標章のみに関する部分はその余の点につき判断するまでもなく理由がない。

三訴外会社が商品をクウェートへ輸出していることは原告らと被告神戸スカーフ、被告栗原間に争いがない。

<証拠>に前記争いのない事実を総合すると、被告神戸スカーフは訴外三共生興などから仕入れたキュプラ織物の白生地反物(以下「被告商品」という)にイ号、ロ号標章を被告方法で表示して訴外会社に販売し、右訴外会社はこれを中近東諸国に輸出し、あるいは輸出商社に販売していることが認められる。

四そこで、イ号、ロ号標章と甲、乙標章との類似性について検討するに、不正競争防止法における商品表示の類似とは、立法の趣旨に照らし、取引の実情とともに、両商品表示の具体的な使用の状態を比較するとき両表示が同一の商品を示すものであると誤認混同されるおそれのあることをもつて足りると解するのが相当である。

そして、<証拠>によれば、原告商品、被告商品は共にキュプラ織物でビニール袋に入れられ、ビニール袋に上から帯マーク、ラベル、金色転写マーク、帯マークを付して中近東諸国に輸出され、中近東諸国の問屋、小売店の店頭でビニール袋に入れられ、右各マーク、ラベルをつけたまま販売されている。そして、両商品は中近東諸国に出稼ぎに来ているパキスタン人が女性用のデュパタ用に買いもとめ、家庭で裁断して使用していることが認められ、また、前記二で認定の原告らの原告商品の輸出量の大さと輸出期間の長さに照らすと甲、乙標章は中近東諸国においても相当有名であることが推認される。

以下、右取引の実情をもとに類似性につき判断する。

1  まず、イ号標章と甲標章とを比較検討すると、甲標章の前の五文字、後の七文字のいずれが要部であると解すべき必然性はみあたらないところ、イ号標章の冒頭のAの頂上に甲標章にはない横棒がついており、文字の太さはイ号標章の方がやや細く、イ号標章と甲標章の第三、四、七、八、一〇、一二文字が相違しているものの、両者は白地に黒で横書きされたゴシック体の英文字で、同数の一二文字よりなり、前の五文字と後の七文字の間隔が他の文字の間隔より大きく、前の五文字、後の七文字の各冒頭の文字を大文字にしており、一二文字中第一、二、五、六、九、一一文字が同じであり、相違する文字のうち第八字のmとn、第一二文字のgとqはよく似ている。

このように全体として一二文字の英文字のうち六文字を共通にし、看者に強い印象を与える冒頭の大文字二字が共通しており、各文字の字体が同じであるなどの共通点のある表示をキュプラ織物という同一の商品に別個に使用するときは、キュプラ織物の取引者需要者においては時として彼此を混同し、両者を同一視するおそれは十分にあり、このような両者の相紛わしさは、これを類似の関係にあるというべきである。

2  ところで被告らはベンベルグ(BEMBERG)は普通名称であるから甲標章の要部はAsahiのみでありイ号標章と類似しないとか、原告らのBEMBERGの商標権の効力がイ号標章に及ばないとか、BEMBERGは銅安法による人絹織物の原材料を指すものであり自他識別力がないとか主張し、なるほど、(一)平凡社出版の工業大事典(一九六二年三月一五日発行)の中のベンベルグの項に「JPベンベルグ社がその製法を有していたので、キュプラ・アンモニア法によるこの糸がこの時から一般にベンベルグと呼ばれるようになつた」との記載があり、(二)大審院昭和一三年一一月二二日判決の中で、ベンベルグの語は一般に銅アンモニア法による人造絹糸を指称するものと認識され、標章としての特別顕著性がない旨判断されている、(三)共立出版株式会社出版の化学大辞典(昭和三七年二月二八日初版第一刷発行)の中で、ベンベルグは「ドイツのJ、P、BembergA、G、およびその特許に基づいて、わが国をはじめアメリカイタリアなどで生産されている銅アンモニアレーヨンの商品名」との記載があり、(四)岩崎学術出版社出版の理化学大辞典(一九六七年三月二五日発行)には「……このようにしてできた糸がベンベルグである」と記載されている。

しかしながら、原告らの甲標章が周知であることは前記認定のとおりであり、右事実から甲標章及びその一部であるBEMBERGの商品表示としての特別顕著性及び自他識別力を持つことが優に認められるところであつて、このことは前認定のとおり「BEMBER-G」の商標登録が認められていること、前記化学大辞典にも前記記載に続けて「銅アンモニアレーヨンの一般名として、わが国ではキュプラが最近採用された」との記載からも裏付けられる。

したがつて、被告らの前記主張はいずれも採用できない。かえつて、被告神戸スカーフがイ号標章を採用するにつき、Bembergを避け、あえてこれに類似のBanbarqを用いていること自体、ベンベルグ(Bemberg)を普通名称として用いるに疑問があることを自覚していたものといえよう。そのように見ると被告らの主張を不正競争防止法二条一項一号適用の主張と解してもこれを採用するに由ないものである。

3  <証拠>によれば、原告旭化成工業のBEMBERGあるいはASA-HIBEMBERGの商標登録にかかわらず、訴外会社はA標章の商標登録を受けたことが認められるが、右商標登録例は法律上本件の判断を拘束する力がないことはいうまでもないのみならず、不正競争防止法の類似の判断は前記のとおり商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かの観点からなされるものであつて、必ずしも商標法のそれと一致しなければならないものではない。

4  次にロ号標章と乙標章とを対比検討する。

ロ号標章と乙標章とを対比すると、両者には被告ら主張のような相違(被告ら主張3(一))があるものの、両者はいずれも鷲が羽を広げた図柄で大きさ、色彩(金色)、右図柄の中に白ぬきで英文字二つ(うち最初の一字はA)及び数字の7330が書かれている点で共通しており、原告商品及び被告商品はいずれも中近東諸国の取引者及び需要者を共通にしており、乙標章は中近東諸国で有名であることを考慮すると両者は同じ鷲印若しくはイーグルマークという印象を与え、取引者需要者にあたかもシリーズ商品若しくは姉妹商品として製造販売にかかるものと誤認し、商品の出所につき混同を生じるおそれがあるものであり、両者は全体として類似するということができる。

<反証判断略>

五1  <証拠>によれば次の事実が認められる。

原告商品の帯マークには左半分が赤で右半分を青とし白で書かれた英文字のBと黒で甲標章が表示され、ラベルには中央部に大きく右と同じ配色のB、その上に黒地に白で、下には黒で甲標章が表示され、金色転写マークは上から乙標章、その下に草模様のようなゆるいカーブを持つた曲線をつなぎあわせて作つた長方形(中に甲標章及びFABRICSの文字がある)、その下に、更にその下に44"×27YDS MADE IN JAPAN と表示され、甲標章及びラベル中のASAHIKASEIの右肩、乙標章の左下にの表示がなされている(なお、被告らは原告商品にはASAHIの文字が一個、ASAHI-KASEIが二個、Asahiが四個付されていると主張するが、ラベルの上のASAHIKASEIの表示以外はいずれも甲、乙標章の一部である)。

被告商品の帯マークには左半分が赤で右半分を青とし白で書かれた英文字のBと黒でイ号標章が表示され、ラベルには中央部分に大きく右と同じ配色のB、その上に黒地に白で、下には黒でイ号標章が表示され、金色転写マークは上からロ号標章、その下に草模様のような曲線をつなぎあわせて作つた長方形(中にイ号標章と近似した文字及びFAB-RICSの文字がある)、その下に、更にその下に44"×25YDS MADE IN JAPANと表示され、の表示はない。

そして原告商品と被告商品の右表示を対比すると、ラベル上部のと、金色転写マークのと、マークの存否の点で相違するものの、そのほかの点についてはそれぞれ近似している。

そうすると、原告商品と被告商品はいずれもキュプラ織物であり、ビニール袋に入れられ、ビニール袋に付せられた帯マーク、ラベル、金色転写マークのうちイ号、ロ号標章が甲、乙標章に類似することは前記のとおりであり、その他の表示についても右のように一部相違はあるものの近似していることに照らすと、両商品について誤認混同のおそれのあることが認められる。

2  <証拠>によれば、原告商品と被告商品は糸の太さ(前者は三〇デニール、後者は四〇デニール)及び布の長さ(前者は三〇ヤードのものが主体、後者は二五ヤード)が異なることが認められるものの、前記のとおり両商品共ビニール袋に入れられたまま販売され、中身をあらためることは困難であり、前記相違をもつて誤認混同の認定を左右することはできない。

また、被告らは被告商品は原告商品より低級品であり混同を生じない旨主張するが、本件全証拠によるもかかる事実は認められず、仮にそうであつてもビニール袋に入つた両商品についてかかる見分けをすることは困難であり、右主張は採用できない。

更に、被告らは、輸出専門業者は原告ら、被告神戸スカーフとそれぞれ特別な取引関係にあり商品名、規格をよく知つており混同することはありえないと主張するが、不正競争防止法一条一項一号がその対象とする行為に「輸出」を加えた(昭和二五年改正)のは、本邦内で周知の他人の商品表示を使用することにより、外国で他人の商品との間に混同行為が発生するのを輸出の段階で防止し、以て国内企業者間の輸出に関連した不正競業を阻止しようとするものであるから、前記のとおり中近東諸国における取引者及び需要者において原告商品と被告商品との誤認混同を生じるおそれがある以上、国内において主張のような事情があつたとしても前記結論を左右するものではない。

六そして、前記のとおり、原告商品と被告商品とが誤認混同するおそれがあり、また、原告旭化成工業はキュプラ原糸を製造販売し、同原告の一〇〇パーセント出資の子会社である原告旭化成テキスタイルは右原糸を使用して原告商品を製造販売しているのであるから、原告らは被告神戸スカーフが被告商品を販売拡布又は輸出することにより営業上の利益を害され、又は害されるおそれがあるものということができる。

七そうすると、原告らは被告神戸スカーフに対し、イ号、ロ号標章の使用の差止及び抹消を求めることができる。

被告栗原本人尋問の結果中、被告神戸スカーフは現在イ号、ロ号標章を使用していない旨の供述があるが、仮にそうであるとしても、被告神戸スカーフは、イ号、ロ号標章が甲、乙標章と類似することを争つていることは弁論の全趣旨より明らかであり、将来イ号、ロ号標章を使用するおそれがあるものということができる。

八<証拠>によれば、被告神戸スカーフがイ号、ロ号標章を付した被告商品を販売した当時被告栗原は被告神戸スカーフの代表取締役であつたこと、それより先の昭和五三年九月二七日被告神戸スカーフ(当時も代表取締役は被告栗原)は原告旭化成工業に甲標章と類似の標章を使用しないなどを約束した誓約書を差入れ、また、甲、乙標章は前記のとおり国内の取引者に周知であり、被告栗原も甲、乙標章を知つていたと認められること、イ号、ロ号標章は甲、乙標章に類似することを総合すると、被告栗原において、イ号、ロ号標章を付した被告商品を販売することが不正競争行為になることを容易に知りえたものと推認され、取締役としての重過失が存したものということができる。なお、A標章が商標登録されていることは前記のとおりであり、被告栗原本人尋問の結果によれば、イ号標章の使用については弁理士に相談し、使用してもよい旨の意見を得ていることが認められるものの、商標法上の類似と不正競争防止法上の類似とは必ずしも一致するものではなく、また、弁理士に相談したとしても、イ号、ロ号標章が甲、乙標章に類似する本件においてはいまだ十分な調査をなしたものとはいえないから、前記重過失を否定する事情とはなしえない。

右事実によると被告神戸スカーフ、被告栗原は連帯して原告旭化成テキスタイルの蒙つた損害を賠償すべき義務がある。

九<証拠>の結果によれば、昭和五四年ないし五六年の間において被告神戸スカーフは訴外会社に対し合計約七二万ヤードの「キュプラレーヨンホワイト」を販売し、そのうち少なくとも七〇パーセントにつきイ号、ロ号標章を付したことが認められる。そうすると被告神戸スカーフは少なくとも五〇万ヤードの被告商品を訴外会社に販売したことになる。

ところで、原告旭化成テキスタイルがキュプラ織物を製造販売していることは前記のとおりであるが、被告神戸スカーフが被告商品を訴外会社に販売し、訴外会社が輸出した昭和五四、五五年度の原告旭化成テキスタイルのAK七三三〇の売上高とそれ以前の昭和五二、五三年度のそれとを比較すると売上高は落ちていないこと(前記甲第六号証)に照らすと、被告神戸スカーフの販売行為がなければ原告旭化成テキスタイルが右被告の販売量と同量の五〇万ヤードを輸出販売しえたと速断することはできず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

そうすると、原告旭化成テキスタイルの損害額は実施料額をもつて相当とすべきであり、実施料率は、被告商品の表示は甲、乙標章を含み、両標章は周知であること及び当裁判所に明らかな化学織物の実施料の相場に照らすと売上高の五パーセントをもつて相当と認める。

したがつて実施料合計額は、五〇万ヤード×二〇〇円(神戸スカーフの一ヤードあたりの平均販売価額((被告栗原本人尋問の結果)))×0.05の計算式により五〇〇万円となる。

一〇請求原因11(一)の事実(原告旭化成工業と被告神戸スカーフ間の違約金支払契約及び被告栗原が右支払債務につき連帯保証したこと)は原告旭化成工業と被告神戸スカーフ、被告栗原間に争いがなく、被告大栄については<証拠>により認められる。

そして、被告神戸スカーフがその後において甲標章と類似するイ号標章を使用したことは前記のとおりである。

したがつて、被告神戸スカーフ、被告栗原は連帯して違約金一〇〇〇万円を原告旭化成工業に支払う義務がある。

一一被告神戸スカーフに解散登記及び清算結了登記があること及び請求原因12①ないし⑤の事実は原告らと被告大栄間に争いがなく、<証拠>によれば、

1  被告神戸スカーフは有限会社カクヤマの倒産、在庫増、手持資金の不足が原因で昭和五七年三月一七日、二五〇〇万円の手形の、同月二〇日一二〇〇ないし一三〇〇万円の手形の各不渡をだし事実上倒産したが、新会社被告大栄は昭和五七年五月七日設立され、被告神戸スカーフの在庫と共に、原告らを含む一部債権者を除き被告神戸スカーフの債務を引継いだ。

2  被告神戸スカーフは昭和五三年九月二七日甲標章と類似した標章を使用しない、使用した場合には違約金一〇〇〇万円支払う旨原告旭化成工業に約した(前一〇項認定)ものの、昭和五四年ないし五六年にわたり、甲、乙標章と類似の標章を使用し、昭和五六年九月一七日原告らから被告神戸スカーフ外一名に対し申し立てられた証拠保全手続により被告神戸スカーフの帳簿等の検証が行われ、被告神戸スカーフ倒産時、原告らと被告神戸スカーフとの間では既に本件紛争が生じていた。

3  本件甲事件は昭和五七年八月九日に提訴され、被告神戸スカーフは同年一〇月二七日解散登記を、同年一二月二一日に清算結了登記をなしたが、右事実が当裁判所に明らかになつたのは昭和五八年七月二七日になされた被告栗原本人尋問の際である。

以上の各事実が認められ、これらの事実を総合すれば、被告神戸スカーフと被告大栄とは形式上は別個の株式会社としての形態を備えてはいるが、その実態は被告大栄が倒産した被告神戸スカーフと実質を同じくする会社として設立されたものであり、かかる設立は倒産した被告神戸スカーフの債権者である原告らに負担する債務を免れる目的を含んでなされたものと認めるのが相当であり、法人格を濫用したものといわざるを得ない。

<反証判断略>

そうすると、被告大栄は前記被告神戸スカーフが原告らに負担した本件損害賠償及び違約金支払債務につき、その別人格であることを主張してこれを免れることは許されず、右債務を被告神戸スカーフと連帯して支払う義務がある。

一二よつて、本訴請求のうち、原告らの被告神戸スカーフにイ号、ロ号標章の使用及び右標章を使用したキュプラ織物等の販売拡布輸出の差止、右標章の抹消を求める部分、原告旭化成テキスタイルの被告らに各自五〇〇万円及びこれに対する不法行為の日の後の昭和五七年八月二一日から支払済に至るまで年五分の割合による金員の支払を求める部分、原告旭化成工業の被告らに各自一〇〇〇万円及びこれに対する甲事件訴状が被告神戸スカーフ、被告栗原に送達された翌日であることが明らかな昭和五七年八月二一日から支払済に至るまで年五分の割合による金員の支払を求める部分については理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却する。

(潮久郎 鎌田義勝 徳永幸藏)

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